リキシャの鈴の音が鳴り響くダッカの路地を抜けると、カレーとスパイスが混ざり合う熱気が顔を撫でる。ガンジスデルタの雄大な水辺には世界遺産のマングローブ林が広がり、ベンガルトラが静かに息づく。色鮮やかなサリーをまとった女性たちが行き交い、路上には活気があふれている。ここは人口密度世界最高レベル、1億7000万人が暮らす「混沌の美」の国。まだ見ぬ南アジアの原風景が、ここバングラデシュにある。
バングラデシュ基本情報
日本からのアクセス
日本からバングラデシュへの直行便はなく、バンコク、シンガポール、クアラルンプール、コロンボなどを経由するのが一般的。所要時間は乗り継ぎ時間を含めて10〜15時間程度。バンコク経由が便数も多く便利だ。
首都ダッカのハズラット・シャージャラル国際空港は市内から北に約15km。空港からダッカ市内へはタクシー、配車アプリ(Uber、Pathao)で移動できる。所要30分〜1時間(渋滞による)、料金は500〜800タカ程度。
バングラデシュ旅行の費用目安
バングラデシュは南アジアでも特に物価が安く、少ない予算でも充実した旅ができる。3泊5日の旅行を想定した費用目安を紹介しよう。
節約プラン
3〜5万円
- ゲストハウス・バックパッカー宿
- ローカル食堂メイン
- 公共交通機関利用
- 自由散策中心
スタンダード
6〜10万円
- 中級ホテル(3つ星クラス)
- レストラン中心
- 配車アプリ・タクシー利用
- 主要観光スポット入場
リッチプラン
12〜20万円
- 高級ホテル(5つ星)
- 高級レストラン・ホテルダイニング
- 専用車チャーター
- シュンドルボンクルーズツアー
バングラデシュの観光スポット
シュンドルボン(Sundarbans)
ガンジスデルタに広がる世界最大のマングローブ林。ユネスコ世界自然遺産に登録され、ベンガルトラの生息地として知られる。ボートクルーズで水路を進むと、野生の鹿、イノシシ、ワニ、そして運が良ければトラの姿も。広大な水の森に包まれる体験は圧巻だ。ダッカから日帰りは難しいため、2〜3日のクルーズツアーに参加するのがおすすめ。
ダッカ旧市街(Old Dhaka)
混沌とエネルギーが渦巻く、バングラデシュの心臓部。サドルガート(船着場)、アーシャン・モンジール(ピンクパレス)、ラルバーグ要塞、スター・モスクなど見どころは多い。特にチョーク・バザールは、スパイス、布地、雑貨が所狭しと並び、リキシャが行き交う活気あふれる市場。早朝のブリガンガ川沿いは、船の往来と人々の営みが重なり、ダッカの原風景が広がる。
パハルプール仏教遺跡(Paharpur)
8世紀に建立された南アジア最大級の仏教僧院跡。世界遺産に登録されたこの遺跡は、レンガ造りの巨大な基壇と精緻なテラコッタ装飾が見どころ。かつて仏教が栄えた時代の面影を残す貴重な場所で、静寂の中に歴史の重みが漂う。ダッカから北西約300km、ラジシャヒ経由でアクセスできる。
ソナルガオン(Sonargaon)
かつてベンガル地方の首都として栄えた古都。最大の見どころはパナム・ナガールという廃墟群。19世紀のコロニアル様式の建物が立ち並び、朽ちた美しさが独特の雰囲気を醸し出す。民俗芸術博物館では伝統工芸品やモスリン布の展示も。ダッカから車で1〜1.5時間、日帰り観光に最適。
コックスバザール(Cox’s Bazar)
全長120kmにも及ぶ世界最長の天然砂浜ビーチ。ベンガル湾に面した広大な海岸線は圧巻で、夕陽の美しさは格別だ。ビーチリゾートとして開発が進み、ホテルやレストランも充実。近郊のイナニ・ビーチ、ヒムチョリの滝、マハシュカーム島など周辺の自然も魅力。ダッカから国内線で約1時間。
バングラデシュで食べたい絶品グルメ
ダッカ式ビリヤニ(Dhaka Biryani)
バングラデシュのソウルフード。スパイスで炊き上げた香り高い米に、柔らかいマトンや鶏肉、茹で卵、ポテトが入る。ダッカ式はムガル帝国の流れを汲む濃厚な味わいで、サフランの黄色と香りが食欲をそそる。オールドダッカの「Haji Biryani」が特に有名で、地元民も行列を作る。1皿200〜400タカ程度。
ヒルサカレー(Ilish Curry)
国魚イリシュ(ヒルサ)を使ったカレー。脂ののった白身魚とマスタードシードベースのグレービーが絶妙にマッチする。モンスーン期(6〜9月)が旬で、この時期は特に美味しい。ご飯と一緒に食べるのが定番。骨が多いので注意しながら味わおう。レストランで300〜600タカ程度。
フチカ(Fuchka)
バングラデシュ版パニプリ。パリパリの小麦粉の殻に、スパイスの効いたタマリンド水、ひよこ豆、ジャガイモなどを詰めて一口で食べる。酸味と辛みが口の中で弾ける爽快感がたまらない。屋台で1個5〜10タカと激安。ダッカのニューマーケット周辺やチャンドニチョーク通りに人気の屋台が多い。
チンガマチェル(Chingri Machher Malai Curry)
大きなエビをココナッツミルクとスパイスで煮込んだクリーミーなカレー。ベンガル料理の代表格で、濃厚でありながらマイルドな味わい。エビの旨味がココナッツの甘みと調和し、ご飯が進む。高級レストランでは600〜1200タカ程度。
ミスティ(Mishti)
バングラデシュの伝統的なスイーツ総称。特に人気なのが「ロショゴッラ」(チーズボールをシロップに浸したもの)、「ションデシュ」(ミルク菓子)、「チョムチョム」(シロップ漬けのチーズ菓子)など。甘党には天国のような品揃え。専門店「Alauddin Sweets」や「Radhuni Sweets」が有名。1個20〜50タカ程度。
グルメエリア
オールドダッカ(Old Dhaka)は、ローカルフードの宝庫。チョーク・バザール周辺には屋台やローカル食堂が密集し、ビリヤニ、フチカ、ケバブなどが格安で味わえる。グルシャン(Gulshan)やバナニ(Banani)は高級住宅街で、洗練されたレストランやカフェが集まる。国際色豊かな料理も楽しめる。ダンモンディ(Dhanmondi)は中間層向けのエリアで、コスパの良い食堂やファストフード店が多い。
バングラデシュならではの体験
シュンドルボンクルーズ
世界遺産のマングローブ林を2〜3日かけて巡るボートツアー。水路をゆっくり進みながら、ベンガルトラの足跡を探し、野生動物を観察する。夜は船上泊で、満天の星空と水の音に包まれる非日常体験。ツアーは1人3万〜5万タカ程度(宿泊・食事込み)。クルナやモングラから出発するツアーが一般的。
リキシャ体験
バングラデシュの移動手段といえばリキシャ(人力三輪車)。カラフルにペイントされた車体と鈴の音が特徴的で、ダッカには数十万台が走るとも言われる。渋滞の中をすり抜けて進む爽快感と、ドライバーとの会話が旅の思い出に。料金は交渉制で、短距離なら30〜100タカ程度。オールドダッカでの移動に最適。
ロケットスチーマー
パドマ川を航行する歴史ある外輪蒸気船。ダッカからクルナ、バリサールなどへ向かう夜行便で、船上で一晩を過ごす旅情たっぷりの体験ができる。デッキから眺める川岸の景色、夕暮れ、星空は忘れられない思い出に。1等キャビンで800〜1500タカ程度。時間はかかるが(12〜24時間)、バングラデシュならではの移動手段。
シレット茶畑ツアー
バングラデシュ北東部シレット地方は、丘陵地帯に広がる美しい茶畑で有名。緑のじゅうたんのようなプランテーションが地平線まで続く景色は圧巻。茶摘みの様子を見学したり、茶園で紅茶を試飲したりできる。ダッカから国内線で約1時間、陸路なら6〜8時間。スリモンゴル周辺が茶畑観光の拠点。
ダッカ以外の都市
チッタゴン(Chittagong)
バングラデシュ第二の都市で最大の港湾都市。シップブレイキングヤード(船舶解体場)は世界有数の規模で、巨大な船が解体される光景は圧倒的。近郊のパテンガビーチ、ファテザン・シャー・ミナール(戦没者記念塔)も見どころ。ダッカから国内線で約45分、バスで6〜8時間。
シレット(Sylhet)
茶畑とイスラム聖地の街。シャー・ジャラル廟はバングラデシュ最大のイスラム聖地で、巡礼者が絶えない。周辺のラタルガオ茶園、ジャフロン・バレー、ビチョナコンディなど自然が美しいスポットも豊富。スリモンゴルは茶産業の中心地で、のどかな風景が広がる。
ラジシャヒ(Rajshahi)
北西部の古都で、パハルプール仏教遺跡へのゲートウェイ。マンゴーの産地としても有名で、シーズン(5〜7月)には甘くて美味しいマンゴーが格安で味わえる。ヴァレンドラ研究博物館では仏教遺跡の出土品を展示。ダッカから国内線で約1時間、バスで5〜6時間。
クルナ(Khulna)
シュンドルボン観光の拠点都市。モングラ港から世界遺産のマングローブ林へのボートツアーが出発する。60ドームモスクで有名なバゲルハット(世界遺産)も近い。ダッカから国内線で約1時間、バスで8〜10時間。
バングラデシュ旅行のベストシーズン
冬(11〜2月)
★★★★★
気温20〜25℃で快適。雨が少なく観光に最適。ベストシーズン。
春(3〜5月)
★★☆☆☆
気温30〜40℃の猛暑。湿度も高く過酷。旅行には不向き。
夏(6〜9月)
★☆☆☆☆
モンスーン期。豪雨・洪水のリスク。移動困難で観光は厳しい。
秋(10〜11月)
★★★★☆
雨季明け。緑豊かで気温も落ち着く。旅行シーズン開始。
結論:バングラデシュ旅行のベストシーズンは11月〜2月の乾季。気温が快適で雨も少なく、観光に最適。3月以降は猛暑、6月からは雨季で移動が困難になるため避けたい。
バングラデシュ旅行の実用情報
通信環境
空港や街中でSIMカードを購入可能。主要キャリアはGrameenphone、Robi、Banglalink。データ専用SIMは200〜500タカ程度で、数GBのデータが付いてくる。購入時はパスポートが必要。ホテルやカフェではWi-Fiが使える場所も多いが、速度は遅め。
移動手段
ダッカ市内はリキシャ、CNG(オートリキシャ)、配車アプリ(Uber、Pathao)が主流。渋滞が激しいため、時間に余裕を持って移動しよう。都市間移動はバス、列車、国内線がある。長距離バスは快適だが事故も多いため、可能なら国内線を推奨。Biman Bangladesh Airlines、NovoAir、US-Bangla Airlinesなどが国内線を運航。
安全と注意事項
重要な注意事項
- 治安: ダッカは混雑しており、スリやひったくりに注意。貴重品は分散管理し、目立つ行動は避ける。
- 交通事故: 運転マナーが荒く、事故が多い。道路横断は特に注意。配車アプリの利用を推奨。
- 衛生: 生水は飲まない。ボトル水を購入。屋台の食事は自己責任で。
- 宗教: イスラム教国のため、露出の多い服装は避ける。ラマダン期間中は日中の飲食に配慮。
- 写真撮影: 軍事施設、警察、女性の撮影は避ける。撮影前に許可を取ると安心。
- 詐欺: リキシャやCNGは料金交渉制。相場を事前に確認し、ぼったくりに注意。
まとめ:バングラデシュで混沌の美に出会う
人口密度世界最高レベル、1億7000万人が暮らすこの国は、一見すると混沌そのもの。リキシャがひしめき、クラクションが鳴り響き、スパイスの香りと人々の熱気が交差する。しかしその奥には、世界遺産のマングローブ林、仏教遺跡、茶畑の美しい風景、そして何より温かい人々の笑顔がある。
ダッカ式ビリヤニの濃厚な香り、ヒルサカレーの旨味、フチカの爽快感。ロケットスチーマーで川を下り、シュンドルボンの水路をボートで進む。リキシャに揺られながら旧市街を巡り、茶畑の緑に癒される。この国でしか味わえない体験が、ここにある。
物価は南アジアでも特に安く、少ない予算でも充実した旅ができる。ただし、交通事故や衛生面には注意が必要。事前準備をしっかりして、11〜2月の快適な乾季に訪れよう。混沌の中に美しさを見つける旅。それが、バングラデシュだ。
さあ、リキシャの鈴の音が呼んでいる。ガンジスデルタの風に吹かれて、まだ見ぬバングラデシュへ飛び出そう。

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